死都日本

  • 2011/01/29(土) 09:24:46

霧島の新燃岳が噴火し火山灰による被害が広がっている。
霧島は宮崎・鹿児島県境にあるが宮崎県の人間はあれは宮崎のものだとくらいに思っている。地図をみると新燃岳の火口は鹿児島県側にあるけれども灰は宮崎県側に降る。
下:下に桜島の噴煙も小さく見える。新燃岳の噴煙はモロに宮崎市方面へ

霧島はたくさんある火山の総称であり、霧島山という山頂はない。ドライブウェイが山上を走り、高千穂の峰から韓国岳に至る火口をめぐる縦走路は登山客に人気がある。桜島は年中噴煙を上げているので明らかに活火山であるが、宮崎県民でも霧島は死火山か休火山くらいに思っていた人も多い。

今回爆発した新燃岳火口は映画「007は2度死ぬ」(1967年)で悪役のスペクターの秘密基地として登場する。火口がスペクターのロケット打ち上げ基地なのである。
これを子供のころ見た。海女に扮した浜美枝とショーン・コネリーがこの山を登る姿を覚えている。さっき海から歩いて出発したのにその直後海女の衣装のままで霧島の山頂にいるというのはムチャな設定だ、と子供心に不審に思ったものだ。舞台となっている海岸、薩摩半島南端の坊津あたりからだと今でも車で3時間はかかるのでないか。高速のないあのころだと一日かかったはず。そもそもが荒唐無稽なお話だからそんな些末事が気になるのは地元の人間だけか。
ともかく日本が舞台、トヨタ2000GTの雄姿、国宝姫路城の白壁を手裏剣で破損、日本人ボンドガール浜美枝、わが故郷宮崎県での撮影など話題も思い出も多かった映画。あれからいつしか半世紀も経過したとは。齢をとるはずだ。

下:カルデラの外輪山から見下ろす加久藤カルデラ。正面が霧島連山。霧島はカルデラ中央にあるわけではない。姶良カルデラの桜島のようにカルデラのはずれにある。中央の道路は九州自動車道。(写真はウィキペディアより転載)



今回の爆発ですぐに想起したのは小説「死都日本」である。この小説を読んだことのある人は誰しもそうだろう。8年前に読んだが印象は強烈だった。宮崎県ではご当地小説みたいな紹介もされた。著者の石黒耀(もちろんペンネーム)は宮崎大学医学部出身の医師で宮崎には土地感があり詳しい。

「死都日本」は霧島が永い眠りから目覚めて噴火し、それに引き続き霧島火山群の母体というべき加久藤カルデラが破局的大噴火する、という設定のいわばクライシスノベルである。かつての大ベストセラー、小松左京の「日本沈没」のスケールダウン版というところ。しかし、こちらのほうが断然リアリティがある。520ページもある大部な本だが前置きは短く、いきなり大災害が始まる。主人公をめぐるストーリーはオマケみたいなもんで、ポンペイの悲劇もかくや、というような大規模火砕流の描写が迫真的。まず都城盆地周辺が、引き続き鹿児島県も火砕流に飲み込まれる。200万あまりの人間は瞬時に火あぶりで即死する。描写は今見てきたかのようにやけにリアルである。こんな規模の噴火になると被害は局地的にはおさまらず、地球規模のものになる。

著者は医師でありながら火山オタクらしく、かなり専門的な地学的トリビアが随所にあり知的好奇心を満足させる。
九州南部に詳しくない人はぜひ地図を傍らに読めばさらに面白く読めるはずである。
ただしそれはこの小説があくまでありえないフィクションとして読めば面白い、ということで、今回の爆発がさらに発展してノンフィクションになってしまってはシャレにならない。江戸時代以降の例のようにすぐに収束するのを祈るのみである。

下:霧島近辺と大規模カルデラ群。これを見ると南九州は巨大火山の巣であることがわかる。ほぼ全域が姶良カルデラの火砕流が堆積したシラス台地となっている。

この本を読んで霧島というのは実は危険な火山だということを知り、こわくなったものだ。長年宮崎県民をしているが、えびの市がカルデラの火口原だなんてことも知らなかった。
私の住まいは県北なので霧島から直線で100kmくらい離れているが大規模火砕流はそんな距離はものともしない。時速100kmでたちまち飲み込む。どうやってどこに避難すればいいか、とマジでシュミレーションしたくらいだ。ただしこの小説が描くような規模の噴火では西日本全域が壊滅するくらいの規模だから宮崎県民は避難のしようがないのであるが。

南九州のカルデラ群のうち一番最近の破滅的噴火は7300年前の鬼界カルデラの噴火でこれが九州の縄文文化を断絶させたという。縄文時代の日本(という国はなかったが)の人口は10万人内外らしいからこの時の死人はおそらく1万人未満くらいですんだだろうが、そんなことがもし現在起こったらすさまじい被害だ。1991年のピナツボ山くらいの噴火の規模でも日本だったら被害はフィリピンの比ではないだろう。

この本は出版からもう8年経過しているが、今が読み時かもしれない。これは2010年前後を想定した近未来小説として描かれている。8年前に書いたにしては8年後の現在と符合するところがある。たとえば大災害に対処する時の政権は長年政権を保ってきた保守党から政権交代したばかりの新しい政権で、首相が「原」という名前なのである!原首相は日本の危機に果敢に対処するのである。石黒氏も驚いているかもしれない。

火山学的に見ても学者たちも感心するくらいよく書けているらしい。学者が集結してこの小説を議題にしたシンポジウムもある。宮崎県民にとってはとりわけ、火山列島に暮らすすべての日本人にとっても災害シュミレーション小説として読んで損はない。

コチラに「死都日本」の舞台となる霧島火山や南九州をドラマの筋に沿ってを詳しくたどるサイトがある。なかなか視覚的かつ学術的でもある。
コチラには南九州の巨大噴火と火砕流を解説しているサイトがある。

下:昨年の秋、新燃岳の麓をドライブしたときの動画。今は
火口から3km以内なので通行禁止。おそらくあたり一面灰神楽だろう。今年のミヤマキリシマは見れないかもね。紅葉シーズンまでには収束してほしいところ。





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